ケルンボード

喫茶パーク

名古屋市昭和区鶴舞2丁目1−16
(鶴舞駅から空港線を南に数分)

更新日:2021.01.30

なんとなく居心地のいい場所、の持つ要素のひとつに「きっちり整い過ぎてない」というのが(聞こえはよく無いかも知れないけど)自分の中では大きいなあと何かにつけて思うわけなのだけど、鶴舞公園の西、空港線をはさんだところにある喫茶パークは、その要素をちょうどいい具合にそなえていて、また、鶴舞図書館の開館を待つ間にモーニングを食べる場所として、たいへん重宝している喫茶店であった。
上に名古屋高速をしょった空港線はとても大きな道路で、車はそりゃあものすごい量とスピードで走っていく。それを目の前にしたパークはこじんまりとした空間で、おそらくご自宅と一緒になった建物なのだろう。ガラスのドアを開けると、目の前すぐにカウンターがあり、その中の小さなおじいさんと、ウエイトレスのおばあさんが出迎えてくれる。
奥の席の道路側に座ると、大きい窓のむこうに空港線と、鶴舞公園と、店先に吊るされたり置かれたりしているこまごました鉢植えたちがぴんぴんしているのを眺めることができる。
モーニングは10時までで、コーヒーか紅茶に、小さなサンドイッチ(卵焼きサンドとトマトサンド)とゆで卵というちょっと嬉しくなるセットだ。10時になると壁に掛けてある鳩時計の鳩が、調子が悪いのかものすごくゆっくりと、重たそうに扉を開け閉めしながら「クアァァァァァッコォォ」という調子で10回鳴く。

ゆで卵のゆで加減がいつでもバッチリ

朝をパークで過ごすのもいいのだけど、お昼のメニューもなんとも味わい深いものがある。
目を疑うような安さのメニュー表の中からハンバーグランチというのを注文すると、おじいさんがカウンターの中でジューッとハンバーグを焼く音が聞こえて来る。ご飯と、赤い福神漬と、目玉焼きの乗ったハンバーグと、千切りキャベツの上に大きなトマトがドンドン乗ったの、が楕円のお皿に盛り付けられたものが、パークのハンバーグランチである。
どうですか。自分が小学生だったら「イエーイ」とバンザイするビジュアルです。カウンターの中では、おじいさんが火の元をちゃんと切っているかの確認(?)を指差しと小さな声でしている。食後にコーヒーも注文して、「どうもありがとうございました」を小さなおじいさんがじっくりした声で言ってくれるのを聞いてお店を出て、それから家に帰るなりまた町に出るなりするのは、最高の休日です。

ご飯がこういう形に盛られているのは訳もなく嬉しい

そんなパークの小さなおじいさんを、11月頃からカウンターの中に見かけなくなった。カウンターの中にはウエイトレスのおばあさんが入り、新たなウエイトレスとして知らないおばあさんが一人加わっていた。
これは、いったい何がどうしたのだろうか、何かしらがあったんだろうな、と思いながら、いつもと同じくモーニングを注文。ウエイトレスおばあさんの作るサンドイッチは美味しくて、新たなウエイトレスおばあさんは朗らかである。
居心地は相変わらずよいのだけど、ソワソワとした気持ちでお店を出た。そのあと何度か来店しても、おじいさんがカウンターにいることはなかった。

年が明けて1月下旬、めずらしく雪の薄く積もった朝にパークに向かうと、カウンターの中に小さなおじいさんがいるではないか。
以前と変わらず、つやつやした赤い頬をしてお元気そうである。ああ、何があったかわからないけれど、よかったなあ、何があったかわからないけど、と思いながら、いつもの席についてモーニングを注文。
はすむかいの席には鮮やかなジャケットを羽織ったおばさまが一人コーヒーを飲んでいて、どうやら常連のお客さんのようである。そのおばさまが、日々の寒さと今朝の特別な寒さについてウエイトレスおばあさんに話しかけているのに少し耳を傾けながら、図書館に返却する本をもういちどパラパラしてみたりしていると、唐突に「マスター、よくなってよかったねえ」という言葉が聞こえてハッと耳をおばさまに集中させる。
「やっぱり二ヶ月かかったねえ。うちの知り合いも同じようにあれで一ヶ月で戻ってきただけど、それからまたあれしとったでねえ」。おばさまの言うあれとは何だったんだろうなあ、と思っていたら、話はそのまま新聞に載っている不思議な形をした大根の話になり、さらに来店したおばさまの知り合いらしいおばさまも含めて、卵でとじたら美味しい野菜の話になり、チョコレートは一日一つならいいという話になり、おばさまが店にいる人にチョコを配り歩く時間になり、「ついでだで」と私のもとにも来てくれたおばさまは、「落花生の入っとるチョコ」と言って小さなスニッカーズを置いてくれた。
ウエイトレスおばあさんは、洋酒の入ったチョコはあれはホワーっとなるでいかん、と笑いながら話している。
壁にかかっている鳩時計は、先日息子さんが修理に出してくれたとのことで、軽快な調子で10回鳴いた。

たくさんの鉢植。むこうに鶴舞公園が見える。

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