ケルンボード

キッチンダイシン

名古屋市千種区今池1丁目13−14
(今池駅9番出口から西に歩いてすぐ)

更新日:2021.02.27

洋食屋さん、というものに対する憧れをもっています。ハンバーグだとか、エビフライだとか、クリームコロッケだとか、そういうご馳走を洋食屋さんで食べることが、人間にとって最高のしあわせのひとつであるという信仰のようなものをもっています。

キッチンダイシンは、週に三日、夜だけ営業している洋食屋さんである。限られた営業曜日は火、金、土で、平日の終わり金曜日に「今週は頑張った。頑張ったということは、洋食屋さんに行くという贅沢をしてもよいということであろう」と意気揚々向かうことができるというのがありがたい。
今池商店街の、いろいろなお店のひしめく中にキッチンダイシンはある。からからと引き戸をあけると「いらっしゃいませ!はい、どうも!」とおやじさんが迎えてくれる。キッチンダイシンは、このおやじさんがひとりで調理から配膳まですべてをこなし、近距離でも遠距離でも威勢良く語尾のすべてに「!」がつくのであった。店内は、テーブルが4卓と座敷があり、まるでどこかの民宿の食事のお部屋、といったかんじの気安さがある。机のはしっこに愛嬌のある小さな置物などが飾られているのが、家っぽくてよい。
席についておやじさんに定食を注文すると、「食べててね!」と壁際にある鍋を指差される。ダイシンでは、日替わりのお惣菜が「勝手にとってね!」という具合に置いてあり、今日は何かと鍋の蓋を開けると豆腐とネギの煮物であった。小皿にとって食べ始めていると、「はい、これね!」とおやじさんが定食の漬物を持ってきてくれる。おおきな丸皿に、大根や人参、きゅうりの漬物がぐるりと円を描くように盛り付けられており、これから始まる洋食パーティーへの期待をぐんぐんと高めてくれるのである。

漬物のこの並びです

小皿の豆腐(ピリ辛で美味しかった)を食べ終えて一息ついていると、奥からおやじさんが大事そうにおおきな皿を両手で運んできてくれるのが見える。人間にとって最高のしあわせ「合ノ子」の一皿です。
皿の中央には車海老フライがぐぐっと海老反りし、それに寄り添うように置かれた帆立フライにはタルタルソースが乗っかって、ヒレカツにはナゴヤ的な味噌ダレがかかり、ハンバーグはふっくら丸々している。その後ろにはレタスやキャベツやトマトやポテトサラダがわしわしと盛られ、ロースハムはしっとりと野菜に覆いかぶさり、サラダ的なスパゲッティーはぐるぐる巻きに鎮座、あらびきウインナーは三本線、赤ウインナーはタコ型に切り込みを入れられて横たわっている。万歳。このパーティー皿を目の前にして平静でいられた試しがありません。

舞台に並んだ主役たちが堂々たる佇まい

何から何まで主役ぞろいの面子を「なんて贅沢なんだ」と夢中になって次々食べていくと、ご飯をはさみこむタイミングがわからなくなってしまい、合ノ子皿を食べ終わることにはご飯が半分まだ残っている、というのが自分のいつものパターンなのだけれど、そうなっても焦る必要はありません。なんせ、大皿の色とりどりな漬物と、配膳された時には熱々(ほんとに熱々)だった具沢山の味噌汁がちょうどいい熱さになっているのですから。漬物はもりもりなのだけど、塩気の少ない穏やかな味わいでパリパリと食べるのにちょうどよい。洋食屋さんで食べるお漬物って、なんであんなに美味しいんでしょう。
あんなに大きなテーブルクロスを広げていた合ノ子パーティーも、もうおしまい。きれいになくなったお皿に手を合わせ席を立ち、これまた「勝手にとってね!」と隅に置かれているコーヒーポッドから熱々のコーヒーをカップに注ぎ、席に戻る頃にはおやじさんが「はいゆっくりしてってね!」とお皿一式を片付けてくれていた。
後ろの席では70歳代と50歳代と思われるマダムふたり組が、同じようにコーヒーを飲みながら時間を過ごしていて、「美味しかったわね」「お腹がねえ、食べてから落ち着くのに時間がかかるのよ」というやりとりのあと、年上のマダムが「ギャル曾根はすごい」とぽつり、しみじみと言葉を落として、それに対して年下のマダムが「あの子は、ほんとうにすごいわよ」と力強く答えていた。

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